北陸本線の怪

2011年2月16日水曜日(原文のまま)

2月にはいって、暖かい日が続き、金沢市内の雪はみるみるうちに融けていった。昨週末は、金曜が休みで、久しぶりに昼間の特急に乗る。車窓から見る加賀平野は、かなり土が見え、白山の雪も、一息ついたというかのごとく落ち着いて見える。あの雪が途切れ途切れに消えてなくなる頃には、車窓から見える一面の田んぼは、清冽な水によって満たされているはずである。A席を指定したので、左からさす太陽は、胸の辺りに掲げた文庫本をまぶしく照らす。でも、カーテンを完全には閉めずに、直射日光によって体を暖めるという久しく味わわなかった感覚を楽しむ。北陸本線で京都と金沢を往復すること、すでに、40回ほどである。カーブの場所も、下り勾配の長いトンネルを特急が思い切り飛ばす時に発生する上向きのGの具合も、体が覚えた。売り子さんも、車掌さんも、数度ならずお目にかかっている。このごろ眠り込んでいても車掌さんが切符を見せろと起こさないのは、私が、常連と認められた証拠かもしれぬ。福井を出て、ながいながい敦賀トンネルを抜けると200メートルほどで、がさん、というおおきな音とかるい振動がする。これは、敦賀に着くアナウンスのはいるちょっと前に起こるので、眠っていたのに、びっくりして目を覚ますことしばし。そのうち、慣れたが、長くこの音の由来が気になっていた。車掌に問い合わせはすぐわかるのであろうが、そこは、研究者のはしくれで、聞くは一生の恥である。この音は、いつも決まったタイミングで聞かれるが、座る車両によって、聞こえてくる方向がちがう。ちがった号車に乗るたびに、その音のする方向に耳を澄ませた。まず、この音は、3号車に席がとれた時に最も近く聞こえることに気づいた。ポイントの切り替え点を通過する時の音とすれば、すべての車両でこの音が均等に聞かれるはずである、では、その他に可能性のある機構はなにか?3号車に席がとれたときによく注意すると、この音は、車両の下からではなく、天井から聞こえる。サンダーバードの車両をすこしはなれたところからみると、パンタグラフは、 かならずしもすべての車両に着いている訳ではない。ここでやっと気がついた。ここからはインターネットの力を借りて、核心に迫ることにした。敦賀トンネルの出口から敦賀駅のあいだには、直流で供給される電力が交流に切り替わる(あるいはその逆)ポイントがある。ちがう方式で電力を供給する架線をシームレスに切り替えることは不可能なので、列車が一部電力なしで走る区間が生じる。ひとつの架線からもうひとつの架線にパンタグラフがのりかえるその瞬間にあの衝撃音がすると推論した。サンダーバードは、電気が消えることはないが、各停だと無電区間に於いて室内灯が消えることがあるらしい。そういえば、昔東京の浅草線か日比谷線だかに乗った時に、しばらく室内灯の消える区間があった。東京のくせに田舎くさいなあと思ったものだ。敦賀を出て、これまたながいながい北陸トンネルを抜けると、そこは、すでに湖国である。北陸と近畿の境目をまたいで自宅と職場を行き来しているのだと実感す。

もうひとつの怪、サンダーバードが敦賀駅をでて、京都に向かうと、まず右手に敦賀の市街を見る。それからすこし走ると、短いトンネルとトンネルの継ぎ目で、進行方向左側に大きな町が見える。晴れた日の夜ここを通りかかると、その街の灯が心にしみるほど美しい。しかし。地図を見ると、敦賀をでて、滋賀県に入るまで、北陸本線の東側に敦賀以外にそのようなおおきな町は存在しない。私は、なにをみていたのか。さらに不思議なのは、京都から金沢に向かうとき(上り)、敦賀の手前では、進行方向右側にそのような大きな町を見ない。普通の地図では、全くこの謎が解けない。しかし、航空写真と地図を組み合わせて見せる地図サイトで、このあたりの拡大図をよくみてみて、この理由に気づいた。京都から金沢に向かうときは(下り)、線路は、まっすぐ北上しながら敦賀市内にはいる。しかし、敦賀から京都に向かう北陸本線は、町のはずれの山を中心に時計回転にループを描く、これは、急勾配をのぼるための工夫であろう。  このループを一周するあいだ、列車が一度来た方向を向くとき、トンネルが一瞬途切れる。このときに進行方向の左側に敦賀市内をもう一度眺めるのである。

写真:北陸本線は、敦賀から京都に向かう線路が、山の中で、ループを巻く。

投稿者: 髙橋 智聡

ピアノを50年以上弾いている。芸事が大好きで、ほかに、茶道、義太夫三味線、能管、ドイツリートなどいろいろ手を出したが、すべて下手の横好きだった。西洋の古典音楽と日本の文楽をこよなく愛する。この15年ほど、夏山行にはまっているが、太ってしまったのと、まとまった時間がとれないのが悩み。金沢からなら、2−3時間もあれば、北アルプスの主要な峰々の登り口に到達する。そして、虎ファン。現、金沢大学がん進展制御研究所教授、内科医。研究の話は、HPで。 http://omb.w3.kanazawa-u.ac.jp/index.html

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